母を自宅へ連れて帰ると決めたものの、介護経験も知識もゼロ。
そんな私に対し、安心して在宅介護が始められるようにと、退院前に介護研修が行われました。
コロナ流行以来、病院への出入りが制限されている今から考えると、とても贅沢で貴重な時間だったと思います。
私に教えるために関わって下さったすべての方に感謝しています。
学んだこと
① 更衣・オムツ交換
更衣の順序や注意点を教わりました。
麻痺がある場合の更衣の鉄則がコレ↓です。
健側は、自由に動く側
患側は、麻痺がある側
理由は、自分で服を着脱する時の動作をイメージしてみるとわかりやすいです。
麻痺があるとスムーズに大きな範囲で関節を動かすことが難しいのと、無理に動かせば関節に負荷がかかってしまいます。
実際の研修では、手順を確認しながらの更衣に、想像以上に時間と労力が必要でした。
当たり前のように出来ている着替えも、体が自由に動くからなんだな、と改めて健康な体の大切さを実感しました。
② オムツ交換
オムツ替えも、当然のことながら、子供のオムツのように簡単にはいきません。
オムツの上にパッドを重ねる、そんなことも知りませんでした。
体を横向きに支えながら、オムツをいい位置にセットするのも最初は大変でした。
やっとこさセットできたかと思えば、中心からずれて、片側のテープが届かなくてやり直し…なんてことも多々ありました。
多少ズレても漏れなければいいと今では思えますが、当時は、やたら真ん中にきれいに合わせたい欲求が強くて無駄に頑張っていたような気がします^^;
また、肌が弱い母のために、交換時にテープ部分を肌に当てないようにする方法だったり、バルーンの管を適切に扱いながらのオムツ交換の方法も教わることが出来ました。
③ 起床~車椅子への移乗
おそらく、ここに一番時間を使ったと思います。
麻痺がある母の体を、私一人で起こし、支えることは至難の業でした。
隙あらばすぐ前後左右どこかに傾いて倒れそうな体を支えるのに必死💦
まずは、ベッドサイドで座位の姿勢を取ることを目標に!
それがしっかり出来たら、
ようやく、車いすへの移乗。
時間が許す限り練習を重ね、『なんとなく』はできるようになったけど、実は、どこか確信が持てずにいた私。
残り僅かとなったところで、教えてくれていたリハビリの先生に、そのモヤモヤを打ち明けました。
肉体の構造を理解できていない私に、より丁寧に教えて下さり、最後は確信と自信を持って移乗をすることが出来るようになりました。
とはいえ、車いすに乗るのが大変なら、ベッドに戻すのも一苦労。
やることは乗る時と同じ。
でも、順序が逆になるだけで私の頭は大混乱。
全然スムーズに出来ない私に
『ゆっくりでいいよ』
『大丈夫』
『出来てるよ』
『その調子』
看護師さんやリハビリの先生が励ましの言葉をいつもかけてくれたのが、嬉しかったし心強かったです。
うまく出来ないことや、疑問点をそのままにせず、すぐにその場で解決できる体制があったことで、短期間でも最低限の介助が出来るようになりました。
そして、気づいたのが、体の大部分が動かないとはいえ、母がほんの少しでも「起きる」とか「右を向く」とか、動作を意識してくれるだけで負担が全然違うということ。
介助動作は、自分一人が力ずくでこなせばいいというものではなく、介助される側とする側が息を合わせる、呼吸を合わせることも大切なんだということも知りました。
④ 医療ケア
喀痰吸引
ほんとに…もう…何よりも!!
怖かったです(-_-;)
練習が厳しかったとかではなく、単純に、吸引する行為そのものが怖かった。
口の奥は見えないし、どこまで管を入れたらいいのかもわからない。
オエっと苦しまれると動揺してしまう。
痰の吸引のタイミングもいつでもしていいわけではないし、
一回の吸引でどのくらい引けばいいのかも決まってはいません。
あくまで、本人の体調や、その時の痰の量に応じて臨機応変に対応しなければならず、在宅介護をしながら慣らしていったという感じです。
しかし、退院時に、口の中の図や器具の消毒方法などを記載した資料をファイリングして渡してくれたのは本当に嬉しかったです。
忙しい業務の合間に資料を用意してくれた看護師の皆さんには本当に感謝しています。
胃ろう
胃ろうの栄養剤は、注入する時間と量が決まっています。
早すぎてもダメ、遅すぎてもダメ。
ちょうどいい圧力と速度で注入しなければなりません。
母が使用する栄養剤は「ラコールの半固形」というタイプで、ゼリー飲料のようなものをイメージしてもらえるといいと思います。
注入には、加圧バッグという道具を使用する方法と、手動があり、私は手動で入れる方法を習いました。
シンプルで簡単に見える「手動」も、一定の速度で注入するために、一定の圧をかけ続けなければいけないので実は難しいのです。
研修中、看護師さんが『すごい!胃瘻、ここまで上手にいれられる人いないわよ!』といつも褒めてくれるので、楽しく取り組むことが出来ました。何歳になっても褒められるのは嬉しいものです✌
他にも、注入前に胃の中にある空気をシリンジで抜くことや、日々のケアの仕方も教わりました。
尿道カテーテル
膀胱に管が繋がれた状態で退院することになった母。
オムツ交換の頻度が減るのは助かる反面、感染症のリスクも高まります。
自然に抜けることは滅多にないにしても、移乗の際に引っ掛けたり、チューブが途中で折れ曲がれば尿がうまく流れなくなってしまいます。
尿道カテーテルの扱い方、そして、正しい知識に基づいた適切な管理が必要であることを学びました。
とはいえ、『抜けちゃっても死にはしないから大丈夫よ。また入れればいいのよ。』と看護師さんに言ってもらえて、気持ちがラクになったのを覚えています。
失敗してしまった時、うまく出来なかった時のことを考えて人は不安になります。
ましてや、医療に関わることならなおさらです。
うまくいかった時でも方法はある。
焦らなくても大丈夫。
と最初から知っていることは、大きな安心感と心の余裕に繋がったと思います。
⑤ 経口摂取
退院後の経口摂取は、本人が希望した時のみ、という方針でした。
それでも、その時のために、ゼリーやヨーグルト、ムース状の食事を口に入れる練習を言語聴覚士の先生に教わりました。
・スプーンに乗せる量
・口への入れ方、入れる角度
・ペース配分
などを実際に母に食べさせながら、マンツーマンで指導してもらうことが出来ました。
咀嚼する力や嚥下機能が低下した人の食事は、自分が食べる食事とはわけが違います。
ほんの少しの量を、時間をかけてゆっくり咀嚼し、飲み込んだことを確認して、ようやく次の一口。
食べさせる側は、つい次の一口を早く入れたくなってしまいますが、無理に詰め込めば、窒息や誤嚥性肺炎へと繋がり兼ねません。
早く食べて!という欲求や、はやる気持ちを抑え、いかに本人のペースに合わせて口に食べ物を運べるか、がポイントかもしれません。
退院前カンファレンス
そして、もう一つ忘れてはいけないのが、病院と介護事業所との連携(情報共有)です。
退院する前に、関係者が集まって話しあう時間が設けられるのですが、そこに訪問看護師の方が同席して下さいました。
母は、看多機という施設を利用している為、訪問看護師さんが得た情報は、看護師さんだけでなく、デイサービスで働く職員にも共有されます。
在宅介護を実際にスタートする前に、家族と病院、介護事業所とで意見を擦り合わせることが出来たことも良かったと思っています。
私が安心して在宅介護を始められて、今日までやってこれたのは、
たくさんの方が忙しい業務の合間をぬって、私のために時間を作ってくれたからです。
介護者への必要な指導は、ある意味当然のことかもしれません。
それぞれの立場で、教えられることを教えただけかもしれません。
それでも、私は、私のためにチームで支えてもらったと思っています。
そして、この
介護を始める人ためのチーム
が今後のどんな介護にも必要だと強く感じています。
母がたまたま疾病が原因で介護が必要になったから、私は入院先で教えてもらうことができたわけで…
介護を始める人のほとんどは、事前の知識も研修もありません。
突如として始まる介護に迷い、戸惑っている人が多数いるのではないかと感じます。
今は、自分でインターネットで情報を集め、しかるべき場所へ相談に行ける人だけが、情報や支援を受けられます。
でも、それで、本当にいいのでしょうか。
介護の始まり方によって、
得られる情報量に差があってはいけない
どんな始まり方でも、
適切な情報と必要な技術を平等に得られることが望ましい
私はそう思っています。
超高齢化社会の日本では、介護は誰にでも必要になることです。
誰でも、いつでも、介護の基礎知識・基礎技術を身に付けられたり、
よりスムーズに支援を受けることが出来るようになるといいなと思います。
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